1,機能主義とは
ティチェナーTitchener,E.B.の構成主義structuralismあるいは
構成主義心理学structural psychologyの立場に対して,
意識が,生活体が環境に適応する時にどのような役割・機能を果たすかを明らかにしようとする
立場が機能主義,あるいは機能主義心理学である。
生存への努力の中で適者が生き残り,適応できぬ者が淘汰されるという
ダーウィンDarwin,C.の進化論の考え(1859)は,
自由競争と実用主義pragmatismの国アメリカで歓迎されたが,
静的で実用性を否定する構成主義心理学は受容されなかった。
進化論はスペンサーSpencer,H.(1870)を通して
アメリカのジェームズJames,W.の『心理学原理』(1890)に色濃く反映され,
ジェームズは,
「われわれの感じ方,考え方は,それがわれわれの外的世界に対する反応を
形作る上に役立つから現在のようなものになった」と,
心的生活の有目的性を前提とした心理学を唱え,機能主義心理学の基礎を築いた。
その基礎に立つデューイDewey,J.は,
その論文「心理学における反射弧の概念」(1896)において機能主義心理学の立場をより明確にした。
従来の反射弧の考えでは,感覚的刺激-中枢的結合-運動的反応の三要素が
ばらばらに考えられ,有機的統一を欠いていたが,
弧arcは元来円の一部であって,全体としての円の中に位置づけられてこそそれは意味がある。
その円とは調整coordinationであって,各要素は適応という目的の中で調整されていてこそ
意味があるとデューイは主張し,これが機能主義心理学の独立宣言になった。
しかし機能主義心理学を一つの学派として確立させたのは,
同じシカゴ大学のデューイの後継者エンジェルAngell,J.R.であった。
彼は論文「機能主義心理学の領域」(1907)によって機能主義心理学を明確に体系化し,
これによってデューイによって基礎が作られたシカゴ学派を機能主義心理学の揺るがぬ牙城とした。
この論文でエンジェルは機能主義心理学の特徴を3点挙げている。
⑴それは心的要素の心理学ではなく,心的作用mental operationの心理学である。
つまり意識の「内容content」の心理学ではなくて,意識の「はたらきhow」と「理由why」の心理学である。
⑵それは意識の効用utility,すなわち,意識が環境の要求と生活体の必要の間を
どのように媒介するかに関心をもつ心理学である。
このような実用主義的な考えでは,意識の効用は適応的行動になって現われる。
⑶それは生活体の身体的な部分と心的な部分の相互の関係を明らかにしようとする
「一種の心理身体学psychophysics」である。
身体的な部分というのは生理過程であるので,機能主義心理学は心的過程を身体的過程に
あるいはその逆に「置き換えるtranslate」生物学の一領域である。
このような考えから,構成主義心理学からは期待されない
動的な心理学の諸領域や応用心理学が発展することになる。
なおシカゴ大学ではエンジェルの後継者の
穏健な機能主義者のカーCarr,H.A.をはじめ,
過激な行動主義を唱えたワトソンWatson,J.B.ほか,
多くの著名な機能主義心理学者が育った。
機能主義心理学の今一つの拠点はコロンビア大学であった。
進化論が前提とする種内の個体変異の考えは
ゴールトンGalton,F.によって個人差研究へと発展し,
その影響を強く受けて1891年にコロンビア大学に移ったキャッテルCattell,J.M.は,
メンタルテストの基を築くなど中心的役割を果たした。
コロンビア大学からは,動的心理学を唱え動機の役割を重んじコロンビア学派として
一つの体系を示したウッドワースWoodworth,R.S.,
試行錯誤学習のソーンダイクThorndike,E.L.,
因子分析による知能因子説を唱えたサーストンThurstone,L.L.などが育った。
シカゴ,コロンビア学派以外の機能主義心理学の推進者としては,
児童・青年心理学の基礎を築いたホールHall,G.S.や
発達心理学や社会心理学の先駆者のボールドウィンBaldwin,J.M.などを挙げることができる。
→構成主義

〔今田 寛〕
コメント
コメントを投稿