スキップしてメイン コンテンツに移動

ポテンシャルエネルギー


1、ポテンシャルエネルギーとは


力の場の各点に位置のエネルギーが定まる場合に、

それをポテンシャルまたはポテンシャル・エネルギーとよぶ


ポテンシャル」は潜在的の意。

運動の勢いとして顕在する運動エネルギーに対していう。

両者の和が一定で、エネルギーは顕在したり潜在したり

互いに移り変わることができるのは、投げたボールジェット・コースターなどの例にみられるとおりである。

力学的エネルギー=運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー

[江沢 洋]


2,力の場とポテンシャル



質点の受ける力が空間の場所により定まっているとき、その空間を力の場という

(たとえば、太陽の周りの重力の場、ただし、太陽は空間に静止しているものとする)。



力の場に基準点Aをとり、そこに静止している質量の質点を静かに

(速度、加速度がゼロ、したがって無限の時間をかけて)

別の点Pまで運ぶ仕事量(A-Γ-P)が途中の道筋によらず、Pの位置P(x,y,z)のみで定まる場合に限り

  W(A-Γ-P)=W(P)=W(x,y,z)

なる関数をこの力の場における質点mのポテンシャルとよび、この種の場を保存力の場という。

Pまで運ぶ仕事が途中の道筋によって違うということがおこるのは、

たとえば力の場が渦を巻いている場合である(下図)。

[江沢 洋]





3,ポテンシャルの場





保存力の場における質点のポテンシャル

空間の各点で値(スカラー)が定まっているので、これもである。

座標の原点Oに固定された点電荷Qがあり、質点mも電荷qをもっているとし、

二つの電荷は同符号とすれば、質点mにはOを中心とし逆二乗の法則に従う斥力が働く。

この力は保存力であって、ポテンシャルの場(x,y,z)をもつことが証明される。

質点mに働く力は斥力で、点Oに近づくほど強くなるから、

mをOの近くまで運ぼうとすれば、それだけ大きな仕事をしなければならない。

それゆえz=0の面上に限定してW(x,y,0)の値をグラフにすると

上の図の左のような山の形(ポテンシャルの山)ができる。

これがポテンシャルの場の一つの表し方である。

この山はまた、等高線(等ポテンシャル線とよぶ)をxy面に描くことにしても表現できる

z=0に限定しなければ等ポテンシャル「面」で表現することになる)。

ポテンシャルの山は、もとの力の場も表現している。



実際、質点m等ポテンシャル線に沿って運ぶのに仕事は不要だから、

上の図の右の点Pで質点mに働く力は等ポテンシャル線に沿う成分をもたないことが、まずわかる。


等ポテンシャル線垂直な成分をもつのみだから、その成分をf(P)と書いてみる。

質点mを静かに山の上方の点P'まで引き上げるには、

質点に-(P)の力を加えるので、-(P)・PP'だけの仕事をすることになる。

これがポテンシャルの増加

  (P')-(P)

になるわけだから、



が導かれる(正確にはP'→Pの極限をとる)。

つまり力は、ポテンシャルの山からその勾配(こうばい)として求められる。

このことは、いま考えた電荷の間の力に限らず一般にいえる。

[江沢 洋]


『戸田盛和著『物理入門コース1 力学』(1982・岩波書店) 

▽原島鮮著『質点の力学』改訂版(1984・裳華房) 

▽S・ガシオロウィッツ著、林武美・北門新作訳『量子力学1』(1998・丸善) 

▽江沢洋著『量子力学1、2』(2002・裳華房) 

▽江沢洋著『力学――高校生・大学生のために』(2005・日本評論社)』



コメント

このブログの人気の投稿

重いものと軽いものを地面に落としたら?

重いものと軽いものを地面に落としたら どっちが早く落ちるのか? 結論からいうと、どちらも変わらない。 (*しかし、空気がある世界では、より軽く、よりやわらかく、 表面積が大きいものが 遅く落下する。 ペラペラの紙切れがゆっくり落ちていくのが最たる例である。) 物理学の世界では、 物体を自然と落とすことを 自由落下 という。 では、なぜ重いものと軽いものが 同時に落ちるのか、思考実験といわれる 頭の中で実験をして確かめてみよう。 空気抵抗が無いもの、つまり 真空中 と 仮定して話を進めてみる。 【真空中…空気が全くない状態。】 1gのものと、1gのものを同時に落としたら、 同じ速度で落下することは納得できると思う。 では、1gのものと2gのものは? と考えてみよう。 2gのものは1gのものを1+1=2個くっつけただけであり、 それ以上のものではない。 くっついたというだけのことで落下速度が速くなるのであれば、 分割すれば遅くなる ということが推論できる。 じゃぁドンドンと分割していくと、 そのうち落下しないで 空中に止まったままになるのか? とまぁこんな感じの思考実験をすることで ある程度納得できるのではないかと思いますが、どうだろうか ? では、実際に理論的に説明していこう。 重い物に働く重力の方が軽い物に働く重力より大きい。 重力 (mg) =質量 (m) ×比例係数 (g) … ① この公式は中学物理で出てくるものである。 比例定数は重力加速度=gと呼ばれ、 厳密には  g= 9.80665[m/s² ]  と定義されている。 同じ力を加えても 重い物 の方 が 軽い物 より 動かしにくい 。 加速度 ( a :   m /s 2 ) =加える力 ( F: N) /質量 ( m: kg)    … ②  ②…これを運動方程式という 【*物理学で力は記号でFを表す。単位はN。】 これも経験があるのではないだろうか。 次のような経験がないだろうか? ・同じ重さなら加える力が大きいほど良く加速する。 ・同じ力なら軽い物ほど良く加速する。 物体に加える力が重力だけの場合は、 ①を②に代入して、 加速度=加

DLVOの理論

1,DLVOの理論とは 二つの 界面* が近づくときの、 【 *… 気体と 液体 、液体と液体、液体と 固体 、固体と固体、固体と 気体 のように、 二つの相が互いに接触している境界面】 電気二重層間の相互作用に基づいた 疎水コロイド溶液の安定性に関する理論。 これはデリャーギンと ランダウ (1941)と フェルヴァイとオーヴァベック(1948)が それぞれ独立に導いたので四人の名前で呼ばれている。 電解質水溶液中で、正または負に帯電している界面に対して、 反対符号の イオン はこれと中和するように分布すると考えると、 その濃度に基づく 電位  φ は界面からの距離  d  に関して 指数関数的に減少する。 すなわち φ=φ 0  exp(-κ d  ) となる。 φ 0  は界面に固定されるイオン層の電位で、 κ は定数であるが電気二重層の厚さを表現する基準となる値で である。 ここで, z  はイオン価, e  は電気素量、 n  はイオンの濃度(イオンの数/cm 3 )、 ε は溶液の誘電率、 k  は ボルツマン定数* 、 T  は絶対温度である。 共存イオンの影響で、電気二重層の厚さが変化すると考えると、 この式から シュルツェ‐ハーディの法則* も たくみに説明可能である。 リンク

儀礼的無関心

1,電車での出来事 電車の中では、 ふつうであれば夫婦や親子など 親密な関係にある人間しか 入ることを許されない密接距離や、 友人同士で用いられる個体距離のなかに 見知らぬ他人 が入りこんでくるということから、 別の規則が派生してくる。 私たちはたまたま電車で隣り合って座った人と 挨拶を交わたりしないし, ふつうは話しかけることもない。   私たちはあたかも 自分の 密接距離 や 個体距離 のなかに 人がいることに   気がつかないかのように、 それぞれ新聞や雑誌を読んだり、 ヘッドホンをつけ 音楽を聴いたり、携帯電話をチェックしたり、 ゲームをしたり,あるいは 目をつむって考えごとをしたりしている。 それはあたかも 物理的に失われた距離を心理的距離によって 埋め合わせているかのようである。 アメリカの社会学者 E. ゴフマン( 1922 ~ 82 )は, 公共空間のなかで人びとが示す このような態度を 儀礼的無関心 と呼んだ。 2、具体的に儀礼的無関心とは どのような状態で 行われるのか? 「そこで行なわれることは、 相手をちらっと見ることは見るが、 その時の表情は相手の存在を認識したことを 表わす程度にとどめるのが普通である。 そして、次の瞬間すぐに視線をそらし、 相手に対して特別の好奇心や 特別の意図がないことを示す。」 電車のなかで他の乗客にあからさまな 好奇心を向けることが 不適切とされるのはそのためである。 たとえば, 電車のなかで他の乗客をじろじろ眺めたり, 隣の人が読んでいる本を のぞきこんだりすることは不適切と感じられる。 例外は子どもである。 子どもは他の乗客を指差して 「あのおじさん変なマスクをしてる」 と言っても大目にみられるし, 逆に子どもに対してはじっと見つめることも, 話しかけることも許され