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『落ち込み少女』第2章その11

「これ以上話していても、何の解決にもならない。」

厳しい一言だ。だが最もだ。だから厳しく感じたのかもしれない。

「直接口で言った方が早いわ。」

それから平木は一方的に僕に話をした。嬉しそうでも悲しそうでもなく、ただ平然と。

話をまとめるとこうだった。

平木尊の生みの親である父と母は、平木が12歳のころに離婚をしている。

原因は母親の潔癖だった。

平木の母親は英才教育を受けた、いわゆるエリートなのだ。

それゆえかもともとか彼女は紛れも無い完璧主義だった。

自分が決めた理想やルールを破ることのできない

凝り固まった心を持つ人間になってしまった。


もちろん全ての人に対してではない。

ご近所の人や知り合い程度なら、

この母はみんなが羨む理想の母親像に見えていたそうだ。

しかし同じ家に住み、気を遣わなくなるほどの仲になると、

母は自分と他人の欠陥が許せなくなる。

それも手がつけられないほどに。平木が10歳のころ、

友だちの家に遊びに出かけていた。

遊び盛りだ。それは母も許していた。


しかし平木尊は平木家の門限である午後6時という決まりを15分も破ってしまったのだ。

ここで“15分も”という表現を使うのは、普通の人にとっては

“たかが15分”だが母にとって15分はあまりに長くあまりに無駄な時間であった

帰ってきた途端、母は平木の頬をぶち、2時間も叱りつけたそうだ。

なぜ門限を守らなかった、私がどれほど心配したか、あんたのせいで私の予定が狂った。

母の自分に対する怒涛の声は12歳の無垢な少女にはあまりにも響いてしまった。


母が神経質なことは徐々に気づいていたが、

ここまで叱られたのはこの時が初めてだったらしい。

その日以来、平木尊は思いつきで言動することが出来なくなってしまう。

そして母の度重なる激昂は父の愛すら冷ましてしまい、

その限界が夫婦の縁を切ってしまった。

父と離婚した母のむき出しの愛は平木尊一人に向けられてしまった。



母に叱られない良い子になるため、勉強をして約束事は必ず守り、
母の顔色を伺う。

そうして15年間生きる知恵を身につけてきた。

人生は選択の連続だ。

そしてそれは年を重ねるごとに徐々に増えていき、自分の意思で選ぶ必要が増えてくる。

15年間母の教育のもとで身につけた知恵は、平木の意思を無にしたのだ。

そんな彼女の心は高校一年になった切っ掛けを機に奇しくも死を選んでしまった。

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