
1,ゲシュタルト心理学とは
形態心理学ともいう。
現代の知覚研究の基礎となった 20世紀の心理学の一派。
過去の理論の原子論的アプローチに対する反発として公式化されたもので,
全体は部分より大きいことを強調し,いかなるものであれ,
全体の属性は部分の個別的な分析から導き出すことはできないとする。
ゲシュタルトという言葉は,物事がどのように「形づくられた」か,
あるいは「配置された」かを意味するドイツ語で,正確に対応する訳語はない。
通常「形」「姿」と訳され,
心理学では「パターン」「形態」という語をあてることが多い。
ゲシュタルト理論は,連合心理学と,経験をばらばらの要素に分解する
構成心理学の断片的な分析手法に対する反発として,
19世紀末にオーストリアと南ドイツで創始された。
ゲシュタルト研究は代わりに現象学的な手法を用いた。
この手法は直接的な心理経験をありのままに描写するというもので,
その歴史はゲーテまでさかのぼるといわれる。
どのような描写が認められるかという制約はない。
ゲシュタルト心理学は,一つには精神生活の科学的研究に対する
味気ないアプローチと考えられたものに,人間主義的な側面を加えようとした。
また,一般の心理学者が無視するか科学の範囲外とみなした,
形と意味と価値の質を包含しようとしたものでもある。
M.ウェルトハイマーは,1912年にゲシュタルト学派を確立したとされる論文を発表した。
これは W.ケーラー,K.コフカとともにフランクフルトで行った
実験的研究に関する報告で,この3人がその後数十年間にわたって
ゲシュタルト学派の中核となった。
初期のゲシュタルト研究は,知覚の分野,特に錯視の現象によって
明らかになった視覚の体制化に関心をもっていた。
ゲシュタルトの法則の強力な基盤である知覚の錯覚がファイ現象で,
12年にウェルトハイマーによって命名された仮現運動の錯覚である。
ファイ現象とは錯視のことで,複数の静止対象がすばやく引続いて示されると,
ばらばらなものと感じることのできる識閾をこえるので
動いているように見える (この現象は映画を見ている際に体験される) 。
知覚的経験の感覚が物理的刺激と1対1の関係をもつとする
古くからの仮説では,ファイ現象の効果は明らかに説明できない。
知覚された運動は独立した刺激のなかに存在するのではなく,
それらの刺激の関係的特徴に依存して現れる経験である。
観察者の神経系の働きと知覚的経験は,
物理的インプットを受動的にばらばらに記録するわけではなく,
むしろ,分化した部分を伴う一つの全体的な場としての体制化された全体となる。
この原理はのちの論文でプレグナンツの法則として述べられた。
加えられた刺激の神経的,知覚的体制化によって,
一般の条件が許すかぎり,よいゲシュタルトが形成されるというものである。
新しい公式化に関する主要な労作は,その後の数十年間に生れた。
ウェルトハイマー,ケーラー,コフカおよび彼らの弟子たちは,
ゲシュタルトのアプローチを知覚の他の分野,課題解決,
学習,思考などの問題に拡大した。
その後ゲシュタルトの諸法則は,特に K.レビンによって
動機づけや社会心理学,またパーソナリティに適用され,
さらには美学や経済行動にも導入された。
ウェルトハイマーは,ゲシュタルトの概念が倫理学,政治行動,
真理の本質に関する諸問題の解明に適用できることを指摘した。
ゲシュタルト心理学の伝統は,R.アルンハイムらによって
アメリカで行われている知覚の研究に受継がれている。
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