
その9←ここをクリック
ホームルームが始まった。
今年で35歳になる秋山先生は、
体育教師と思い違いするほど、屈強な体といかつい顔つきで
教壇に立ち、言葉を発している。
しかし、見た目とは裏腹に生徒に対しては体罰的なことは一切せず、
怒る時は怒鳴りつけるよりもまずは生徒の言い分を聞くことを
モットーにしている心やさしい先生なのだ。
しかし、いやだからこそ、本気で怒った時は怖いんだろうなぁと
密かに末恐ろしく思っている。
三週間後に始まる中間テストについてと
歩きスマホについての注意を伝えた後、
秋山先生は心なしか、けだるそうだが真剣な面持ちで言葉を発した。
「実は昨日、この校舎の屋上で飛び降りをした
生徒を見たとの報告が多数挙がっている。」
その瞬間、僕は平木を見た。
何ともないように、自ら片手に持った本の文字を流暢に追い続けている。
おいおい、ふざけるな。
昨日の一件がバレたってことだぞ。
待ってましたと言わんばかりにみんながざわつき始めた。
「しかし、校舎の周りに飛び降りた痕跡などはなかったため、
ただのイタズラか、見間違いの可能性もある。
このことで何か知っている人がいたら、僕のところに報告するように。」
そう言って、先生は教室を後にした。
おいおい、そんないかつい顔して一人称が僕って…
いや、今はそれよりも昨日のことだ。
僕は周囲を見渡し、自分を見ているのではないか、
早まる鼓動を感じながら、誰の視線も感じないことで安心した。
右隣の彼女はまぶた一つ動かさない。
僕一人だけ心の中で騒いで、馬鹿みたいに思えた。
続き←ここをクリック
コメント
コメントを投稿