その9←ここをクリック
この少女の大胆さにあっけにとられていると、
「ほら、早く来なさいよ」
僕にそう言った平木は玄関まで進んでいた。
「あがっていいの?」
「なら、あがらなくてもいいわよ」
もうこんな対応には慣れている。
僕は言われるまま、階段をあがって中に入っていた。
玄関には靴が一足もなく、鏡以外、何も置かれていない。
整われたというか人が住んでいる感じがしない殺風景な絵図だった。
奥をのぞいても、人の気配はないし、
僕がおじゃまします、と言ってもこの家は何の反応もない。
どうやら家には誰もいないようだ。
平木は二階にあがっていったので、ついていった。
「さあ、入って」
平木は部屋の扉を開けて、中に入った。
どうやらここは平木の部屋のようだ。
部屋には机とベット以外、特に特徴的なものは見つからなかった。
「そこで座ってて。今、飲み物持ってくるわ。麦茶でいい?」
そういうと、折りたたみ式の机を用意した。
「ああ、お構いなく」
「じゃあ、いらないのね?」
「いや、そういうわけじゃなくて…」
「じゃあ、どういうわけなのよ?」
「お構いしてください」
「よろしい」
なんて面倒くさい女だ。
もう帰ってやろうかと思ったが、今の彼女は最初に見たあの頃よりも、
どこか楽しそうに見えたので、武骨な言葉遣いも甘んじて受け入れた。
そして、平木は部屋を出た。
階段を下りていく音が聞こえる。
ハァ、まさか平木の家に行くことになるなんてなぁ。
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