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そういえば、今日の数学のテストの大問二の五番の問題、
僕はそこが確信をもった答えを導きだせなかったので空欄にしておいた。
しかし試験終了の五分前に答えを書いたので、あまり自信がない。
「平木っ、聞いていいか?」
「何よ」
「今日の数学の大問二の五番の問題って、答えが1/3だったよな?」
「いいえ、1/6よ」
「まじか...」
面と向かって間違ったことを知らされるといささかショックだった。
ダメだ、思い出すのはやめよう。
…そういえば、今日の国語のテストの問題は面白かったな。
主人公太郎が政府に無実の罪を着さされて善良な民に弾圧されて、
太郎は何とか自分の罪が濡れ衣であることを証明し、政府を倒す。
最後には善良な民に英雄とたたえられた小説の一部抜粋されたものだった。
市民は太郎を受け入れて、太郎も彼らを受け入れた。
しかし僕なら許せるのだろうか。
ついこないだまで自分を責めていた相手が急に手のひら返しだ。
これが善良な民がすることなのか。
そもそも善良な民が本当の善人かと問われるとどうかと思う。
誰だってルールに従いながら、悪いことをしている。
善人って何だ?
悪いことをしたことがない人間なんているのだろうか?
そもそも悪いってなんだ?
考え出したら、突きつめれば、疑問は湯水の如く止まらなくなる。
「どうしたの?考え事?
在りもしない脳みそを使っても、何も搾り取ることはできないわよ」
さすがにこいつの僕への暴言には慣れてきた。
「なぁ、平木、聞いてもいいか?」
「なによ、羽塚くんには黙って勉強するということが常識の範ちゅうにないのかしら?
あら、ごめんなさい。あなたに常識を求めた私が愚かだったわ」
もう反応するのも面倒になった。
だから、僕は平木の返事を無視して、聞いてみた。
「善良な民は本当に善人だったのかな?」
「あぁ、今日の国語のテストの小説ね」
「罪を負った太郎には、民は穢れたものを見るように差別したのに
潔白と分かった途端に手のひら返し、これが善人がすることなのか?」
「さあ、ただ私は許されるべきだと思うわよ」
「だって、人は過去と行動でしか他人を判断できないもの」
そう言った彼女の目には何か心当たりがあるかのようだった。
きっと僕なんかではとうてい計り知れない何かが彼女の過去にはあるのだろう。
さも当然のように消しゴムで文字を消す行為は誰しもが出来ることではないらしい。
人生の過ちとは、烙印のごとく、体に深く刻み込まれるものだ。
「過去を振り返るのは、全てを出し切ってからにしなさい」
平木は僕に格言ともいえる言葉を遺して、ひたすら勉強をしている。
それからというもの、僕はこの真面目な空気にのせられて、
勉強を始めた。
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