1,無知の知とは
ソクラテス哲学を特徴づける有名な言葉。
哲学者 (愛知者) という意味でのギリシア語 philosophosは,
ピタゴラス,ソクラテス的意味では神だけが知者 sophosであるとの立場から,
知者でないがゆえに知sophiaを愛求する有限的存在としての人間の本質規定であった。
したがって philosophiaは,いわゆる賢者や知恵の本性が神と比すれば
無にも等しいものであることを明らかに自覚することに始まる。
本来的な知のイデーのもとにおける自己の無知の自覚が無知の知にほかならず,
ソクラテスの優越は,だれよりも深くこのことにおいてすぐれていたことによる
(『ソクラテスの弁明』) 。
しかも無知の知は,消極的側面にとどまらず,
かえって迷妄をはらし真実の知への扉を開くのであり,
かかる自覚を自己の本質的契機としてこそ,
「能うかぎり神に似ること」が philosophosの目標として措定されることになる。
それゆえにまた教育者としてのソクラテスは,
人々にこの自覚を与え本来的な知のイデーヘ視座を転換するように努めるのであり,
そのことはプラトンの対話篇に印象的に示されている。
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