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『落ち込み少女』第10章その7





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気づけば、遊んでいた男子たちが手伝うようになっていた。

ひりついていた空気は無くなり、僕の仕事は完ぺきに奪われてしまった。

やることもなく、窓の景色を眺めていると、平木が隣に来た。

「まさか羽塚くんにあんなに女子から人気を博しているなんてね」

グランドには、陸上部、サッカー部、野球部が練習している。

もうすっかり日も落ちて、空から青と橙色が消えていく。


「いや、あれは嘘だよ」

「どういうこと?」

「西山に頼んでおいたんだ、教室に戻る前に。


作業している僕を褒めてくれって。

西山が褒めれば、クラスの女子も当然それに乗っかる。

たかだが、柱の一面を塗ったくらいで女子に褒められるのなら、

男なら、やってしまうものさ。

特に小西とか女子にあんまモテない二軍の奴らはな。」


「その言い方じゃ、自分は二軍とは違うと軽蔑しているようね」


「いや、僕だって、女の子に褒められるのは好きだよ。

ただあいつらみたいに、手のひら返しで生きるような様にはなりたくないな」


「まぁ、おかげで二軍の男子たちが手伝うようになって、

金曜日までには終わりそうね、大手柄じゃない。」


いや、これは僕のものじゃない。

文田や平木、西山、クラスの女子のおかげで成り立った作戦であって、

とうてい僕一人じゃ成し得なかった。


「でも、それなら、西山さんに男子たちを注意するよう頼んでおいた方が、

あなた的には楽だったんじゃない?」



さすが、平木だ。常に色んなやり方を考えている。

この少女の頭の良さはこういうところにあるのだな、と思った。


「それは無理さ。だって、西山は誰を注意するのが苦手だから」


「どうして、そう思うの?」


「そりゃ….」 

西山は良い子だから。

良い子は誰にとっても、良い子でなくてはいけないのだから。

でも、それを言葉にして言うわけにはいかない。


「まぁ、あなたにこんな力があったなんて、少し見直したわ。

これから呼び名を童貞クソ野郎から、童貞に変えてあげる」


「ああ、それでいい。それでいい」



後ろを振りかえると、みんなが後片付けをしていた。

時計を見ると、六時五十分だった。

「どうやら、今日はここまでのようね」

そう言うと、平木は自分の席に置いていた鞄を手にした。


「平木、一緒に帰らないか?」


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