「西山か」
思わず声に出してしまった。
この場面、デジャブのようだ。
「静かすぎて、誰もいないと思ってたよ」
西山は前の扉から僕の座席の前まで歩いて、
窓際にもたれ、グランドを眺めていた。
「一人で騒いでたらおかしいだろ」
「まぁそうだね。ところで、こんな時間に何やってるの?」
「英語の丸付けさ。再提出をくらってね」
「羽塚くんって意外と抜けてるんだね」
いつも通り可愛らしいクスリとした笑顔だ。
「ああ」
あまり余裕がなかったのか、気のない返事になった。
「羽塚くん、どうしたの?」
「どうしたって何が?」
「いつもより暗い感じがする」
そう言われると、つい語りたくなる。
結局、聞き役が欲しかっただけなのかもしれない。
「結局、僕は何もできなかった」
下唇を噛み締めながら言った。
「悩み部屋が何なのかさえわからない。
僕は選ばれたのに、君や平木の力になりたかったのに」
野球部の掛け声に打ち消されるんじゃないかと思うほど、僕の声は小さかった。
「別にいいんじゃない?分からなくても」
「え?」
味気ない答えに、僕はあっけにとられてしまった。
「だって分かったところで私たちが生きるのは平々凡々なこの世界なんだから」
何かを悟ったように雄弁に話す彼女は、テニス部の女子たちに手を振られていることに気づき、
「他にもやることいっぱいあるじゃん。勉強とか部活動とか恋愛とか」
と言い、満面の笑みで手を振り返している。
僕と放課後にいることが知られても良いんだろうか?
余裕がないくせに余計に気を遣ってしまう、悪い癖だ。
「特別じゃなくていい。
君の周りには『そばにいてくれるだけでいい』って言う人がたくさんいるはずだよ」
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