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逆選択






1,逆選択とは


情報の非対称性

(他者と当事者との情報がかみ合っていない)が存在する環境では


持っている情報量が多い者は持っている情報量が少ない者の無知につけ込み、


あまり質の良くない財やサービスを良質な財やサービスと言って提供したり、


都合の悪い情報を隠して保険サービスや契約などの提供を受けようとする

インセンティブ(誘因)が起こります。



そのため、情報を持たざる者(情報劣位者)はその財やサービスに対して、

本来の価値より過敏に悲観的な予想を抱くことになり、(勘ぐってしまう)

もし情報の非対称性が無ければ売買が行われていたはずの

取引の一部が行われなくなります。

そして、市場で取引されるものは、

悲観的な予想に見合った質の悪い財やサービスばかりとなります。







これを、通常は良いものが選ばれ生き残るという

『選抜』、『淘汰』の逆であるという意味で、逆選抜、逆淘汰と呼びます







2,逆選択の例



イメージがつきやすいように

中古車市場の売り手と買い手を例にとって、この問題を考えてみましょう。


中古車の売り手はプロですし、

手元にある車を検査することもできますからよく知っています。


自分の売り物の車がどの程度の品質か、どれほどの性能かよく知っているはずです。




車の外見だけではなく故障の起こりやすさや起こったときの程度についても

いままでの経験から詳細な情報を持っています。


一方で、買い手のほうは広告や試乗などの車を外見のみで判断するしかありません。


その車の質に関して、ほとんど何も情報を持っていません。

(整備士なら話は別ですが)


このように、売り手と買い手とでその財の質=タイプに関して

情報格差があるときには、市場がうまく機能しない可能性があります。
買い手(消費者)は欠陥車をつかまされるかもしれないと用心して、

中古車を買いたくても買わないかもしれません。



その結果、市場全体の規模が小さくなり、

最悪のケースでは市場そのものが成立しないこともありえます。




優良企業が逆選択で市場から締め出される可能性がある


逆選択は、中古車の市場以外でも見られます。


保険会社が契約者の健康状態を知ることができなければ、


病気に対する保険を設定しようとしても健康状態の悪い人しか加入しなくなり、


保険会社は採算上、保険料率を上げざるをえなくなります。


そうすると、

それでも加入したいと思う人はさらに健康状態の悪い人に限定されますから、


さらに保険料率が上昇し、結果として保険そのものが成立しなくなります。


医療保険は強制加入の公的な保険制度でないと成立しないような状況になります。



銀行が企業に資金を融資する場合も、

借り手が将来的に成長率がよい企業か悪い企業を


審査ができなければ、逆選択の問題が生じます。


悪い企業にお金を貸すのなら利率を高くせざるをえませんが、

そうするといい企業はなくなります。


悪い企業はそれでも銀行からお金を借りようとして、

ますます銀行の借貸出利率が上昇し、

いい企業は完全に破綻してしまいます。



要するに、

自分の利益を求めるがあまり買い手の損得を考えないと痛い目にあうということ。

慌てる乞食は貰いが少ないとはまさにこのことですね。




3,逆選択への対応策






逆選択の問題に対しては、いくつかの対応が考えられます。



供給を調整する ②制度の整備


③最低価格を決める 信号、合図(signaling


ふるい分け(screening





この5つについて、先の中古市場の例で説明しましょう。

供給を調節する


中古車の市場が成立しないひとつの原因は、中古車の価格カ低下するにつれて、

中古車の売り手がいなくなることでした。

しかし、一定年数の経った中古車をすべてを強制的に売却する制度を作れば、

たとえ価格が低下しても中古車の供給は減少しませんから、

中古車の市場を維持することができます。


制度の整備


中古車でいえば、車検制度を整備します。

中古車の品質を均一に維持・管理ができるようになれば、


ある中古車を見ても、それは他の中古車と質はまったく変わらないので

情報の非対称性の問題が解消されます。


消費者としては、車検の質さえ知っていれば、

個々の車の品質をチェックしなくともその車の品質を知ることができます。




最低価格を決める


3つ目の対策は、ある一定価格以下での売買を禁止することです。


中古車の価格が低下されることを防ぎ、良質な中古車が市場に

供給されるようになります。




④信号、合図(signaling


4つ目の対策は、売り手の側の対応です。

自分の車が良質であるとわかっている

売り手は、悪い車の売り手と自分を差別化しようとします。

たとえば、一定の走行距離までは故障に対する

修理保証をつける、などの品質保証がこれに当たります。


悪い車を売ろうとしている売り手に採用できない手段を取ることで、

自分の車はよい車であるという信号を買い手に提供しているのです。

⑤ふるい分け(screening


5つ目の対策は、買い手側からの要求です。

故障が生じたときの修理保証など、買い手が一定のハードルを設定し、


それを越えられた売り手のみから購入するようにすれば、

結果として、

良質の車の売り手とそうでない車の売り手を区別できるようになります。


これをふるい分けあるいはスクリーニング(screening)といいます。


またスクリーニングは医学の世界でも用いられており、

ターゲット(実験をしたい奴ら)となる集団に対して、


実施する共通の検査によって、

調べたい病気を患っていると疑われる対象者あるいは

発症が予測される対象者をその集団の中から選び抜くことを指します。


対象集団は通常、病気の自覚がないかまたは病気であっても症状が比較的軽くて、


気がついていなかったり潜伏期である対象者が含まれている


可能性をもつ集団となる。





参考文献
大学四年間の経済学が
10時間でさっと学べる
著 井堀利宏















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