
1,社会化とは
その集団や社会に適応することを学ぶ過程のことをいう。
社会化は、基本的には学習である。
諸個人は、他の人々との相互作用を通して、行動の仕方、ものの考え方、
または感情の表出や統制の仕方を学習するが、
このような社会的場面における学習の過程を社会化というのである。
[柴野昌山]
2,社会化の3段階
幼年期社会化、青年期社会化、および成人期社会化の3段階に分かれる。
(1)幼年期社会化
人間が生まれてから乳児期、幼年期を経て児童期に達するまでの期間に進行する社会化である。
人間のパーソナリティーを
基本的に決定する時期にあたるという意味で重要な基礎的過程であり、
従来の実証的社会化研究も主としてこの時期の社会化に焦点を置いて行われてきた。
幼年期社会化が進行する場面は、まず第一に家族、家族集団である。
そこでは主として母親が子供にとっての「有意味な他者」であり、
子供は母親に対する「同一視」を通して直接的には、その母親に特有な価値・態度様式を取り入れる。
だが同時に子供は、母親の背後にあるその社会の文化の型や
共有的な行動の様式を取り入れることによって、その社会にふさわしい成員性を獲得するのである。
したがってこの意味で、母親および保護者は、
その社会における「社会化の代行者」であり、子供は社会化の被作用者である。
この時期の社会化過程は、連続的に分節化された段階、
すなわち口唇期、肛門期、エディプス期、潜在期を経過するが、
このなかで一貫してたいせつな社会化の課題は、
母親との一体関係からの自立と性的役割をとることについての学習である。
幼年期社会化の第二の場面は仲間、仲間集団である。
幼児は、遊びやゲームを通して他者の期待を取り入れ、社会的期待にこたえる方法を学習するが、
学童期に入ると自発的にギャング・グループをつくり、
そのなかで形成された独自のルールに従うことから協同性や道徳性を身につける。
すなわち、子供は幼年期社会化の過程で、
その子供なりの個性を形成するとともに、多様な社会関係を通して社会性を獲得するのである。
(2)青年期社会化
思春期から青年期を経て一人前の大人へと成長していく過程の社会化である。
この時期の最大の達成課題はアイデンティティの獲得である。
アイデンティティとは
「社会的価値と個人的価値の独自的結合による自我一体性の感覚」
(E・H・エリクソン)であるが、これは、一面において「仮面をかぶった自己」を反省して
「真の自己」を発見しようとする過程のなかで獲得されるとともに、他の面では、
他人の目に映った自己像を仲間や同時代の人々の反応によって確かめたり、
他者の期待を取り入れることによって形成される。
(3)成人期社会化
この概念は、従来の社会化研究が人生の初期段階でのしつけや学習に重きを置くのに対して、
社会化を生涯にわたって生起する役割学習であるとする考え方に基づいて出てきたものである。
成人期社会化の主要な課題は、人が社会生活において状況の要求を正確につかみ、
適切に行動することができるような成人役割の学習と状況的適応の習得である。
さらに成人期の社会化は、
青年期までに形成された人格的統一を改めて再組織し直すという側面も含んでいるから、
「再社会化」の過程であるともいわれる。
だが再社会化は、成人期だけに限られるわけでなく、青年期後期においても出現する。
なぜなら社会構造が複雑になり、産業化に伴う技術革新の進展とともに
高学歴化が進むと、青年たちは以前よりも長い間学校教育を受けることになり、
このようにして青年期が延長され、ユース期またはヤング・アダルト期とよばれるような時期が成人期までに介在することになる。
そこでは生理的・経済的次元においては1人前の大人と変わらないが、
社会的にはまだ成人としての地位・役割をとりえていないということで
1人前として扱われない年長青年または若い大人たちの役割学習と状況適応が問題となるのである。
これも再社会化の現代的様相である。
[柴野昌山]
3,社会化の種類
道徳的社会化、および言語的社会化などが区別される。
職業的社会化とは、職業的地位が要求する役割に
十分こたえることができるような態度、意識、行動様式を身につけることである。
どのような職業を希望し、どのような仕事に興味をもち、
その職業にふさわしい価値観を習得していく過程において、
職業的自我を形成することが職業的社会化のたいせつな部分である。
政治的社会化は、政治意識の形成とその変容にかかわる過程であるが、
とりわけ政治に関する知識、価値、態度を学習することによって
青年期以後の政治的構えを形成するものである。
政治に対する構えは、自然につくられるのではなく、周囲の大人たち、マス・メディア、教師との接触を通して、
また地域社会における政治的事件を見聞することによって学習され、形成される。政治に対する関心、
好意的または非好意的態度、参加意識などは、政治的社会化のあり方によって大きく左右されるのである。
道徳的社会化とは、いいかえれば道徳性の形成である。
この領域の研究は社会学や心理学において古くから行われている。
ピアジェは、認知的側面から道徳性の発達を研究し、
子供の道徳性は、自己中心的な段階から協同的関係へ発達すると考えた。
彼が行った子供のマーブル・ゲーム(おはじき遊び)の観察研究は有名である。
これは、子供が遊びを通して規則ないし社会規範をどのように内面化していくかを明らかにした。
これによると、幼い子供は、規則やルールの観念を全然もたない、
また競争に関心をもつこともない段階(自閉性の段階)から、
次には、しだいに仲間や他の人々との間で規定された役割をとることを知るようになる。
だがこの段階は、まだ規則や役割規定の根拠をほとんど理解しないままそれらを宇宙の法則と
同じように受け取る(絶対性の段階)。
そして7、8歳くらいになると、絶対的でない世界があることを認めるようになり、
自他の視点の相違をわきまえて他者の期待を内面化するようになる(相互性の段階)。
このようにして相互尊重の精神と良心の形成が進むのである。
言語的社会化は、言語的コミュニケーションを通して、
大人のもっている文化が子供のパーソナリティーのなかへ内面化されていく過程である。
この種の研究には、話し手の心のなかに存在する
言語的選択の規則に注目して、文化的言語環境のもつ社会化作用を重視するものや、
母親の養育行動と幼児の反応行動に注目して、
あるしつけの型がどのようなパーソナリティーを形成するのかを探ろうとする方法などがある。
とりわけ後者は、文化人類学的視点に基づく比較文化論的な社会化研究といわれるもので、
コーディルWilliam Caudill らの日米比較研究によると、
日本の児童はアメリカの児童に比べて言語発達における明らかな遅れを示すとともに、
幼児は養育者に対して依存的行動をとる傾向があるという。
これは、日本人が非言語的コミュニケーションと
自他の相互依存的関係を優先させるような
社会的性格をもっていることと無関係ではない。
[柴野昌山]
『W・コーディル他著、中山慶子訳「母親の養育行動と乳児の行動」(『現代のエスプリ113 しつけ』所収・1976・至文堂) ▽菊池章夫・斉藤耕二編『社会化の理論』(1979・有斐閣) ▽B・バーンスティン著、萩原元昭編・訳『言語社会化論』(1981・明治図書出版) ▽柴野昌山編著『しつけの社会学――社会化と社会統制』(1989・世界思想社)』
コメント
コメントを投稿