スキップしてメイン コンテンツに移動

『落ち込み少女』第5章その11





その10←ここをクリック




「ただいま」


お腹をすかせた僕に出迎える人など当然いるはずもなく、


それどころか「おかえり」の返事さえ聞こえてこない。


誰もいないのかと思ったが、鍵が開いていたのでその可能性はなかった。


それにニュースのコメンテーターが何かを解説している声が聞こえてくる。


これで誰もいなかった場合、


僕は今日枕を高くして寝ることは到底不可能だろう


廊下をわたり、誰かがいることを心から願いながら僕は引き戸をそっと引いた。



母でも父でもない人物がリビングにいた。


僕の妹、羽塚彩(はねづかさい)だ。


今年中学三年生であり、受験生でもある。


それなのに今はテレビを見ている真っ最中のようだ。


ちなみに僕は去年、受験生だった時にはテレビを見ていると、母親に注意された。


それなのに妹にはテレビを見ていようが、ゲームをしていようが


何のおとがめもないのだ。


これは僕よりも妹の方が可愛く見えるからだろうか。


しかし、僕は妹を可愛いと思ったことは一度もない。


それは子への愛情が少し偏りがあるのではないか、


という父と母に対するわずかな不満と


それをいいことに僕への口調が兄という年長者に対するものとは思えないほど、


辛口なのが、僕を妹嫌いにさせる大きな要素だ。




「お前、来年、僕の高校に受験するんだってな」


だからこそ、僕もこういう風についつい喧嘩腰に話しかけてしまう。


妹は帰宅してきた僕を一度も見ていなかったのに、


僕が言葉を発した瞬間、顔をこわばらせ、


「ハァ?その高校に通っているからって自分の所有物みたいに話しているの?」


ほれ見たことか、いや言ったことか。


年長者を敬うという考えを教わらなかったか、いや知らないらしい。


この通り、僕らはつねに戦争状態なのだ。


同じ屋根の下で暮らす限り、休戦することはありえない。


戦火を鎮める方法はただ一つ、それは人類が知恵と経験を積み重ね、


自らのプライドをバッキバキにへし折ることで成し得る偉大な行為だ。


僕は大きく息を吐き、姿勢をただした。


「悪かった」


そう、謝ることだ。


それもただ謝るだけではない。


気持ちがこもっていないと気づかれないように


姿勢をただし、今にも泣きそうな顔をする。


僕はこれでどんな困難も乗り越えてきた。




妹は呆れたのか、こわばっていた顔がゆるみ、


別の要件を思い出したようだった。


「言い忘れてたけど、去年の過去問渡してくれない?」


「悪い、とうの昔に捨てたんだ」


あきらかに不機嫌になっていたが、


それを無視して僕は二階へとかけあがった。


僕はあえて捨てたことにした自分を情けなくは感じなかった。


それは今、かけあがっていたからもしれない





続き←ここをクリック








コメント

このブログの人気の投稿

重いものと軽いものを地面に落としたら?

重いものと軽いものを地面に落としたら どっちが早く落ちるのか? 結論からいうと、どちらも変わらない。 (*しかし、空気がある世界では、より軽く、よりやわらかく、 表面積が大きいものが 遅く落下する。 ペラペラの紙切れがゆっくり落ちていくのが最たる例である。) 物理学の世界では、 物体を自然と落とすことを 自由落下 という。 では、なぜ重いものと軽いものが 同時に落ちるのか、思考実験といわれる 頭の中で実験をして確かめてみよう。 空気抵抗が無いもの、つまり 真空中 と 仮定して話を進めてみる。 【真空中…空気が全くない状態。】 1gのものと、1gのものを同時に落としたら、 同じ速度で落下することは納得できると思う。 では、1gのものと2gのものは? と考えてみよう。 2gのものは1gのものを1+1=2個くっつけただけであり、 それ以上のものではない。 くっついたというだけのことで落下速度が速くなるのであれば、 分割すれば遅くなる ということが推論できる。 じゃぁドンドンと分割していくと、 そのうち落下しないで 空中に止まったままになるのか? とまぁこんな感じの思考実験をすることで ある程度納得できるのではないかと思いますが、どうだろうか ? では、実際に理論的に説明していこう。 重い物に働く重力の方が軽い物に働く重力より大きい。 重力 (mg) =質量 (m) ×比例係数 (g) … ① この公式は中学物理で出てくるものである。 比例定数は重力加速度=gと呼ばれ、 厳密には  g= 9.80665[m/s² ]  と定義されている。 同じ力を加えても 重い物 の方 が 軽い物 より 動かしにくい 。 加速度 ( a :   m /s 2 ) =加える力 ( F: N) /質量 ( m: kg)    … ②  ②…これを運動方程式という 【*物理学で力は記号でFを表す。単位はN。】 これも経験があるのではないだろうか。 次のような経験がないだろうか? ・同じ重さなら加える力が大きいほど良く加速する。 ・同じ力なら軽い物ほど良く加速する。 物体に加える力が重力だけの場合は、 ①を②に代入して、 加速度=加

儀礼的無関心

1,電車での出来事 電車の中では、 ふつうであれば夫婦や親子など 親密な関係にある人間しか 入ることを許されない密接距離や、 友人同士で用いられる個体距離のなかに 見知らぬ他人 が入りこんでくるということから、 別の規則が派生してくる。 私たちはたまたま電車で隣り合って座った人と 挨拶を交わたりしないし, ふつうは話しかけることもない。   私たちはあたかも 自分の 密接距離 や 個体距離 のなかに 人がいることに   気がつかないかのように、 それぞれ新聞や雑誌を読んだり、 ヘッドホンをつけ 音楽を聴いたり、携帯電話をチェックしたり、 ゲームをしたり,あるいは 目をつむって考えごとをしたりしている。 それはあたかも 物理的に失われた距離を心理的距離によって 埋め合わせているかのようである。 アメリカの社会学者 E. ゴフマン( 1922 ~ 82 )は, 公共空間のなかで人びとが示す このような態度を 儀礼的無関心 と呼んだ。 2、具体的に儀礼的無関心とは どのような状態で 行われるのか? 「そこで行なわれることは、 相手をちらっと見ることは見るが、 その時の表情は相手の存在を認識したことを 表わす程度にとどめるのが普通である。 そして、次の瞬間すぐに視線をそらし、 相手に対して特別の好奇心や 特別の意図がないことを示す。」 電車のなかで他の乗客にあからさまな 好奇心を向けることが 不適切とされるのはそのためである。 たとえば, 電車のなかで他の乗客をじろじろ眺めたり, 隣の人が読んでいる本を のぞきこんだりすることは不適切と感じられる。 例外は子どもである。 子どもは他の乗客を指差して 「あのおじさん変なマスクをしてる」 と言っても大目にみられるし, 逆に子どもに対してはじっと見つめることも, 話しかけることも許され

DLVOの理論

1,DLVOの理論とは 二つの 界面* が近づくときの、 【 *… 気体と 液体 、液体と液体、液体と 固体 、固体と固体、固体と 気体 のように、 二つの相が互いに接触している境界面】 電気二重層間の相互作用に基づいた 疎水コロイド溶液の安定性に関する理論。 これはデリャーギンと ランダウ (1941)と フェルヴァイとオーヴァベック(1948)が それぞれ独立に導いたので四人の名前で呼ばれている。 電解質水溶液中で、正または負に帯電している界面に対して、 反対符号の イオン はこれと中和するように分布すると考えると、 その濃度に基づく 電位  φ は界面からの距離  d  に関して 指数関数的に減少する。 すなわち φ=φ 0  exp(-κ d  ) となる。 φ 0  は界面に固定されるイオン層の電位で、 κ は定数であるが電気二重層の厚さを表現する基準となる値で である。 ここで, z  はイオン価, e  は電気素量、 n  はイオンの濃度(イオンの数/cm 3 )、 ε は溶液の誘電率、 k  は ボルツマン定数* 、 T  は絶対温度である。 共存イオンの影響で、電気二重層の厚さが変化すると考えると、 この式から シュルツェ‐ハーディの法則* も たくみに説明可能である。 リンク