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「お前はひきょう者だ」
一つ目の車両を越え、二つ目に入った時、ふいに他人の声が聞こえてきた。
どうやら、僕らに対して言ってきたようだった。
おそらく三十~四十歳ほどの男性がこちらを注視している。
まるで白骨化した死体のような年齢推定だ。
見ず知らずの男性の年齢なんて、考えたこともない。
健全な男子なら、当然のことだろう。
順調に前に進み、とりあえず通り過ぎていたが、まだ僕らを見ている。
まるで目の前で悪事を働いた悪者でも見るかのように。
後ろを見ずとも、梅雨のような嫌悪感と汗が混じった空気を
こちらに飛ばしているのがわかった。
止まりそうなった足の踏み込みをまた、しようと思っていた。
しかし、その意志がすんと、重力に従順に従い、足元に落ちた。
西山の足が止まっていたのが見えたからだ。
もう今朝の笑っていた顔は影も形も面影もない。
「良い子を演じて、あんただけ褒められて」
今度は女の子が言っていた。
言葉にはとげが刺さったような面持ちを含んでいた。
「どんな愚痴だって、聞いた。どんな自慢だって、聞いた」
「それなのに…それなのに」
もう誰に言っているのかは分かっていた。
その罵りが西山に対するものじゃないと言い切れる材料はもうどこにも存在しない。
まるで偽りが真実からしか生まれないように。
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