「前に進もう」
ただ、ここで止まっていることが
この絶望的な状況を壊しうるきっかけになるとは思えなかった。
誰もが自覚するべきなんだ。
傷を持ってなぐさめることを、憂いをもって落ち込むことを。
そんな希望を謳う絶望の中を泳ぐように、かきわけて生きていくしかない。
そして、疲れた時は息継ぎをすればいい。
ただずっと息継ぎをして泳ぐことは、進んだことにはならない。
ズルしたって、どこかで帳尻は合わせなきゃいけない。
いくら針をずらしたところで、必ず正しく戻ろうとする原子時計のように。
だから、ここで進むことは自覚すべき事実を知るだけなんだと思う。
西山にとっても、僕にとっても。
でも、何が自分にとって正しいものなのかは人による。
「わかった」
西山を顔を上げ、足がふらつきながらも、立ち上がった。
疲れているのか、迷っているのか、その返答には自信というものが
わずかも感じられなかった。
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