その7←ここをクリック
目の前にいる西山が薄れていくように消えていった。
まるで初めからこの世界にいなかったように。
もう一人の西山は去っていった。
それは納得をできたからなのか、それとも正しさを証明できたからなのか。
西山を見ると、隣にある席に座っていた。
顔を伏せて、深く息を吐いたようだった。
緊張の糸が切れたからだろうな。
西山は座ったまま動こうとはしなかった。
僕はただその時間の中、待っていた。
待つことは苦手だが、不思議と苛立ちはなかったように思える。
彼女は自分の正しさを証明したかったのだろう。
そうだとするなら、この待ちぼうけの時間も無駄にはしたくない。
窓の外を見ると、電車は止まることなく、進み続けている。
この先の景色が変わることがあるんだろうか。
西山が立ち上がり、前に進んでいった。
僕は半歩遅れて、彼女に続いた。
四つ目の車両に着くと、運転席があった。
そこには男の車掌がいた。
官帽型の帽子を被り、スーツを着ている。
後ろ姿から察するに、何の変哲はない、普通の運転手だ。
窓ガラスを叩くと、こちらをちら見して、扉を開けてくれた。
僕と西山はそっと、他人の家に入るような慎重さで運転席に立った。
車掌は、僕らに目もくれずに、車掌としての仕事をこなしている。
西山が近づくとアクセルとブレーキを手から放した。
西山の方をずっと見ている。
西山はおぼろげながら意図を察したのか、
ゆっくりとアクセルとブレーキを触ろうとした。
「それでいいのです」
車掌は、微笑ましいものを見たかのような顔で西山にそう言った。
「でも....」
「それでいいのです」
同じ言葉だったが、さっきよりもゆっくりと落ち着いたようだった。
電車はまっすぐ、線路の上を進んでいる。
コメント
コメントを投稿